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紺碧の将

アートのごとし、うどんの「慎」

2020.11.29

 11月5日付の本コラムでラーメン店「楢製麺」について書いた。本欄で食べ物の話題は少ないうえ、ましてラーメンのことを書いたのは1000回以上の連載で初めてのこと。何人かの方から「行って食べてみた。美味しかった」という声をいただき、胸をなでおろした。なにしろ、行列のできているラーメンをちっとも旨いと思えない人間が紹介したのだから。

 その記事で、楢製麺の本店であるうどんの「慎」について少しだけ触れた。アンテナの張っている人はこちらにも足を伸ばし、「とても旨かった」とコメントをくれた。

 うどん派かそば派と問われれば、私はうどん派と答える。もちろん、そばも好きだ。ただし、そば独特の風味があって腰があれば、という話。風味がなく麺がだらしないそばを食べていると哀しくなるから、どうしてもうどんを食べてしまう。

 そんな私にとって、「慎」はドンピシャ。まるで「あなたが食べたかったのは、こういううどんだろ?」と言われたような感じ。

 楢製麺と同様、店内は狭い。間近にある厨房で若い男が必死の形相で小麦粉をこねている姿が見えるのがいい。

 ホームページに店主である楢原慎司さん(この名前だけで「慎」と「楢製麺」のネーミングの由来がわかる)のこだわりが書かれている。簡潔にして的を射た文章だ。いわく、

 ――うどんの「コシ」と「ノビ」は相反する。その中間を探求した、店主こだわりの麺。

 当店のうどんは、店主が理想とする究極のうどんを実現するため、切りおきや茹でおきは一切しておりません。あらゆる手間を惜しまず、一杯ごと「打ちたて」「切りたて」「茹でたて」にてご提供させていただいております。

 

「打ちたて」「切りたて」「茹でたて」と言うが、そう簡単ではない。

 サイトによれば、自分が作りたいうどんに適していると思われる小麦の生地を一晩寝かせて熟成させ、その日に提供する分だけを打つ。打ち粉を最小限に抑えることで、「つるっ」とした舌触りと「ぷりっ」とした歯触りの麺ができるという。

 切り置きはいっさいせず、注文が入るたびに生地を切っている。そのため、注文してから多少の時間を要する。

 また、麺の茹でムラを少なくするため、大量のお湯を張った大釜で茹でている。マニュアルに従って一定の時間茹でるというのではなく、その日の気温や湿度などに応じて茹で時間を見極めるという徹底ぶり。

 また、讃岐うどんはイリコを出汁に使うのが一般的だが、慎の麺には濃厚で風味の強いイリコ出汁は合わず、より洗練された味わいを求め、つゆは削り節と昆布から取った関西風出汁をベースにしているという。

 食べてみれば、なるほどと納得できる。

 価格はひと皿1000〜1500円ていど。一般的なうどんの価格と比べると少し割高感はあるが、納得のプライスである。トッピングによっては3000円くらいのものもある。

 ランチでもいいし、新宿界隈で飲んだときは〆を食べすに余力を残し、慎で満足のピリオドを打つのもいい。たくさん食べたい人は、大盛りも無料。

 本物を求める老若男女に愛される店だ。

https://www.udonshin.com/

(201129 第1041回 写真はぶっかけうどん+かき揚げ天+梅おかか)

 

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