『資本論』はだれも実践できない(3)
資本主義は自然を壊す
前回、『資本論』を援用した計画経済はあとかたもなく破綻したと書いた。その理由は、マルクスが人間という生き物についてまったく誤解していたがためだと。
しかし、正鵠を射ていると思う面もある。それは、資本の論理は自然を収奪し、やがて生態系を破壊するということ。
その実例は数え切れないほどあるが、この季節だからこその例をあげよう。スギの人工植林による弊害である。
よく知られているように、戦後、日本は住宅建材の需要が伸びると想定し、全国にスギの植林を進めた。スギは生育が早いため、急増する需要に応じて供給できると想定したのだ。そして、一面スギだらけの山が日本中あちこちに現れることとなった。
しかし、結果は無惨だった。外国から安い輸入材が入っているようになったことで、植林されたスギ山は放ったらかし状態になった。そして毎年春になると、膨大な量の花粉を全国に撒き散らすこととなった。
その結果、花粉症に悩まされる人が急増した。それによる経済損失は一日当たり約2,215億円という途方もない数字が算出されている。加えて、森林の保水能力が減少し、土砂崩れなどの水害を誘発し、生物多様性が失われたことによって絶滅種も増加している。つまり、資本の論理によって〝良かれ〟と思って行ったことが、すべて裏目に出てしまったのだ。しかも、この大失敗を後世に活かそうという発想は微塵もない。誰がどういうプロセスを経て、どのように決定したのか、まったく検証されていないのだ。これでは、同じような間違いが際限なく繰り返される。
この一事をとっても、資本の論理、分けても専門家と称する人たちの判断がいかに本末転倒か、わかろうというもの。
スペインの思想家オルテガ・イ・ガセットは「専門家ほど判断を誤る」と言ったが、それは正しい。歴史がそれを証明している。
共産主義も完全に間違いだらけだったが、資本主義の論理に従って行ったことも、ほとんどが間違いだったという。
「じゃあ、どうすればいいわけ?」と言いたい人もいるだろう。
それに対する答えはない。人間がよけいなことをしなければいいのだ、と答えるしかないが、人間は人間である以上、これからもよけいなことをするだろう。残念ながらそれを止める手立ては、ない。人間は、自分たちが正しいと思い込む生き物である。反省しない生き物なのだから、これからも誤りを繰り返し、その結果、地球は蝕まれていく。(次回に続く)
(210315 第1064回 写真は、一面スギだらけの山)
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