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紺碧の将

磨き直した『魂の伝承』

2021.07.12

 

 18年前に出した初の拙著『魂の伝承 アラン・シャペルの弟子たち』を電子版で復刻させた。

 厳密にいえば、紙の本も若干残っているが、より簡単に読んでもらえる環境をつくるには電子版が欠かせない。定価はほぼ半分、アマゾン・プライムの読み放題会員であれば、文字通り読み放題である。

 当初の本では表紙カバーに8つのエンボス(型押し)加工が施されていた。7つの円は登場するシェフたち(音羽和紀、上柿元勝、三國清三、小久江次郎、渋谷圭紀、西原金蔵、フィリップ・ジュス各氏)を象徴し、1つの正方形はメートル・ド・テルのエルヴェ・ドゥロンジエ氏を象徴していた。電子版では当然ながらエンボス加工は表現できない。そこで、アラン・シャペルが愛犬たちを可愛がっている写真を使って表紙をリデザインした。

 電子版作成にあたって、久しぶりに本文を熟読し、細かく手を加えた。新たに付け加えるところはほとんどなかったが、余分な記述、表現を削除した。その作業によって、より鮮明にアラン・シャペルと弟子たちの心の交流が浮かび上がってくるはずである。

「厨房のダ・ヴィンチ」とも「20世紀最大の料理人」とも言われたアラン・シャペルが、どのようにしてルセット(レシピ)を超えようとしたのか、また、その料理哲学をどのようにして弟子たちに伝えようとしたのか。書いた本人が言うのも図々しいが、読みながら身が震える思いをした。やはり懸命に仕事に取り組む姿は美しい。神々しいまでに。

 副産物があった。初めての本に賭ける自分のパッションに触れたことだ。モヤモヤとしたものをなんとかして表現したいという思いが、行間に滲んでいる。もちろん、技術的には今の方が手練れになってはいる。18年間、毎日書き続けてきたわけだから。一方で、失ったものも明らかにあると思わずにはいられなかった。

 しかし、それは残念なことではない。人が前へ進んでいくうえで、避けては通れない道なのだ。

『魂の伝承 アラン・シャペルの弟子たち』

(210712第1084回)

 

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