Time and tide wait for no man.
一般的には「歳月人を待たず」と訳されているが、その場合の出処は陶淵明の詩である。つまり、月日の流れは待ってくれないのだから、その有限な時間を有意義に使いなさいという意味。同じような意味をもつことわざで「光陰矢のごとし」もある。いずれにしても、人生という時間の有限性を表している。
しかし、頭ではわかっていても、それを自分のこととしてとらえることは、そう容易ではない。特に若い時分は「この時」がいつまでも続くと錯覚してしまう。だから躊躇なく20年後、30年後の話をする。25年の住宅ローンを組む。
ところが、ある時期、時間の有限性に気づかざるをえない場面に遭遇する。多くの場合、それは容姿の変化だったり体力や気力の衰えだったりする。だから、それらは忌むべきものではなく、むしろありがたいものである。時間の有限性に気づくことなく、最期まで時間をムダに使っていたとしたら、後悔の多い人生になるかもしれない。
英語の「Time and tide wait for no man」も大筋は同じ意味だろう。もちろん、Time と tideで韻を踏んでいる。Tideは潮の干満のほかに「時流」という意味もあるから、チャンスを逃すなというニュアンスが強いようだ。
余談ながら、ローリング・ストーンズの曲に「Time waits for no one」があるが、「Time and tide wait for no man」をもじったものだろう。このコラムにはまったく関係ないが、この曲のミック・テイラーのギターさばきはなんとも味わいがあった。
(第10回 200627)
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