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紺碧の将

All dressed up with nowhere to go.

ロバート・ベラー

 アメリカの社会学者ロバート・ベラーが『徳川時代の宗教』で書いた言葉を、北岡伸一氏の名著『明治維新の意味』で見つけた。

「頭のてっぺんからつま先まで完全にドレスアップしたのに、出かけるところがなかった」という意味。

 これは江戸時代、徳川氏が築き上げた盤石の幕藩体制を評したものだが、同時に、「それほどパーフェクトな体制をつくったのに、諸外国との交流がなかったから、それを披瀝する機会もなかった」という揶揄も含んでいると思われる。なにはともあれ、ベラーにとって江戸時代の幕藩体制はよくできた社会体制に映ったのだろう。

 言うまでもなく平和は尊いものだが、その代償もあると北岡氏は指摘する。たとえば、軍事技術の停滞。大阪夏の陣と幕末の長州征伐で使われた武器はほぼ同じだったという。幕末は西欧列強に侵略される最大の危機だったのだ。また、鎖国によって航海術も後退した。

 どんなものも、過ぎたるは災禍を招く。リアリズムを忘れ、バランスを失えば、リスクが増大する。表掲の言葉はそんな意味にもとれる。

(第38回 210207)

 

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