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紺碧の将

大御所の名にふさわしい、圧倒的な貫禄

file.072『デューシズ・ワイルド』B.B.キング

 タイトルの「Deuces Wild」は、ポーカーなどで2の札がワイルドカードとして使えるゲームを指すらしい。ポーカーをやったことがない私には、なんのことかさっぱりわからない。

 17人のゲストを迎え、共演することとどう関わりがあるのかわからないが、このアルバムによって〝大御所〟と呼ぶにふさわしいブルース・ギタリスト、B.B.キングの底力をまざまざと見せつけたことはまちがいない(1997年発表)。

 彼に〝召集〟されたアーティストは、エリック・クラプトン、ローリング・ストーンズ、ヴァン・モリソン、ドクター・ジョン、ディオンヌ・ワーウィック、ウィリー・ネルソンら、ビッグネームばかり。

 B.B.キングは17の強烈な個性を真っ向から受け止め、自らの歌唱力、ギターのテクニック、そして作曲能力を十全に発揮した。まるで格下の力士をあしらう横綱のような手さばきで。彼を凌駕する共演者は一人もいなかった。

 B.B.は幼少時に教会でゴスペルを歌っていたことで、ゴスペルシンガーのような、強靭な歌声を獲得したという。

 しかし、よく聴けばわかるが、ギターの技術は卓越しているとは言い難い。そもそも彼は歌っているときにギターを弾かない。なんと本人は「歌いながらギターを弾くことは難しい」と打ち明けているのだ。さらに「なんともバカな手を持って生まれてしまったものでね」と一笑に付す。とはいえ、一音一音くっきりと弾くキングの奏法は、グールドの音を彷彿とさせる。

 また、B.B.の作る曲はブルースに典型的な6/8拍子が主体の、いわゆるハチロクブルースのような泥臭い曲だけではなく、洗練された曲が多い。このアルバムに収められている曲はほぼB.B.が作曲したものだが、その幅広い作曲センスには脱帽するばかり。天は一物どころか、多くの才能を彼に与えたようだ。

 余談ながら、B.B.は自分のギターに「ルシール」と名づけている。1950年代、とあるクラブに出演したとき、二人の男がルシールという女性をめぐってケンカを始め、それがきっかけでクラブが火事で焼けてしまったことに由来する。外に出てから愛用のギターを置き忘れたことに気づいたキングは燃えさかる建物に戻り、ギターを救い出したという。

 以来自分のギターに「ルシール」という名をつけるようになった。自分を律せられないことが大きな災厄を生むということを肝に銘じるために。

 B.B.はこのアルバムで味をしめたのか、2000年、自分を慕うエリック・クラプトンとの共作『ライディン・ウィズ・ザ・キング(Riding With the King)』を発表している。こちらもなかなかの風格。一聴の価値ありだ。

 2015年、偉大な才能は神に召された。

 

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