いろんな〝仲間〟と楽しんだらこうなった
6歳の頃、失明したレイ・チャールズは、盲学校に通いながらピアノを学んだ。その後、音楽で身を立てようとシアトルに移り、クインシー・ジョーンズと出会ってから道が拓ける。やはり、道を拓くのは学びと人との出会いである。
このアルバムは、本コラムで紹介したB.B.キングの『デューシズ・ワイルド(Deuces Wild)』同様、多くのゲストを迎えてのデュエット集である。
B.B.キングのデュエットは、どちらかといえばゲストとの〝競演〟に近いが、レイは和やかなムードのもと、タイトルにもあるように〝仲間〟と楽しんでいるという雰囲気だ。
彼のもとに集まった仲間は、ノラ・ジョーンズ、ジェームズ・テイラー、ダイアナ・クラール、エルトン・ジョン、ナタリー・コール、ボニー・レイエット、ウィリー・ネルソン、マイケル・マクドナルド、グラディス・ナイト、ジョニー・マティス、ヴァン・モリソン、そしてB.B.キングといった超豪華メンバー。この顔ぶれを見ても、彼がいかに多くの人から愛されていたかがわかる。
レイの歌には、日本の侘び寂びにも通ずる空気感がある。歌の途中で途切れたり、かすれたり、間を空けたり、相手にバトンを渡す時に声をかけたり……。彼には「定形」がないのだ。自由自在である。それがツボにはまる場合もあれば、そうでない場合もある。ゴスペルを大胆にアレンジしたときは、敬虔なクリスチャンから手ひどく非難されたという。
レイは、相手の個性に無理に合せず、のびのびと歌っている。アンティークの趣きがあると言えばいいだろうか。緻密に整った美しさより、枯淡の味わいがある。
米英のアーティストはこのアルバムのように、さまざまなゲストを迎えてコンセプト・アルバムを作ることがあるが、それができるのは個性豊かなアーティストの数が多いからであろう。「たくさん集めたけど、結果的にみんな同じになってしまいました」ではシャレにならない。
レイは2004年、この世を去るまで音楽を楽しみ、慈しんだ。歌にも人生にも味わいがある。
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