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紺碧の将

1980年代を代表する1枚

file.080『ロンドン・コーリング』ザ・クラッシュ

 長くロックを聴いているが、1970年代後半のパンク・ロックの出現ほど驚き、戸惑ったことはない。もちろん、尖兵はセックス・ピストルズである。いかにも単純なコードで、ガガガガーと喚いたと思ったら終わっていたという感じで、「これは退化なのか?」と訝しんだ。

 それまでロックは進化し続けていた。特に70年初頭からの成熟はめざましく、ロックはこれからいったいどうなってしまうのだろうとワクワクさせてくれた。その成果がレッド・ツェッペリンであり、ピーター・ガブリエルであり、ピンク・フロイドなどのプログレッシブ・ロックであった。

 ところが、である。冒頭に述べたように、パンク・ロックはそれまでの進化を全否定するかのように、あえて稚拙で過激で単純な音楽を旗印にした。どうにも馴染めないまま、耳は少しずつ順応し、セックス・ピストルズ以降のニュー・ウェイブは心地よいとさえ思った。

 その筆頭が、ザ・クラッシュである。特に、今回紹介する『ロンドン・コーリング』は、ただのニュー・ウェイブ・バンドに収まらず、さまざまな〝成長〟を遂げたとアルバムと言っていい。パンク・ロックは成長や進化を否定していたはずなのに、俄然内容が濃くなってきた。ダブやスカ、カリプソといった第三世界の音楽スタイルを融合させ、独自の地歩を築いていった。

 このアルバムがリリースされた直後の日本公演に足を運んだが、オープニングから総立ち、アンコールは5回ほど演奏された。まさしく前代未聞の熱いコンサートだった。

 ザ・クラッシュのメンバーは、ジョー・ストラマー(ヴォーカル、リズム・ギター)、ミック・ジョーンズ(リード・ギター、ヴォーカル)、ポール・シムノン(ベース)、トッパー・ヒードン(ドラムス)の4人。とくだん上手の演奏者は一人もいない。ソングライティングも並みでしかない。それなのに、他のバンドにはない、独特の〝熱〟を持っていた。既成の音楽を否定することから始まった彼らのこの作品は、なんと『ローリング・ストーン』誌によって1980年代最高のアルバムに選出されてしまった。権威を否定していたはずなのに、権威を得てしまったのだ。

 なんというアイロニー!

 レコードでは2枚組だったが、CD化され1枚になった。佳作がたくさん入っているが、なんといっても特筆すべきはオープニングの「ロンドン・コーリング(London Calling)」である。この1曲が1980年代を象徴すると言って過言ではないだろう。続く「新型キャディラック(Brand New Cadillac)」はレッド・ツェッペリンの「ロックン・ロール」を彷彿とさせるくらい、シンプルでイカしている。他にも「ジミー・ジャズ(Jimmy Jazz)」「ロスト・イン・ザ・スーパーマーケット (Lost in the Supermarket)」「ラヴァーズ・ロック(Lover’s Rock)」「トレイン・イン・ヴェイン(Train in Vain)」など、忘れがたい曲が目白押しだ。

 ジャケット写真も秀逸だ。ペニー・スミスによるもので、1979年、ニューヨークで行なわれたライヴの最中に、ステージ上でベースギターを叩き壊しているポール・シムノンの姿を写したものである。このジャケットはロック史に残るのではないか。

 ところで、ザ・クラッシュはもともと労働者階級出身ということもあり、政治的にはかなり左翼思想を反映している。当時のサッチャー政権を手ひどく批判しているが、サッチャー・ファンの私としては承服し難い。

 

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