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紺碧の将

陰翳のあるサウンドと辛口の文明批判

file.083『ホテル・カリフォルニア』イーグルス

 1976年、このアルバムが発表される直前のイーグルスに対する期待は世界的に高まり、新作に関する情報が飛び交っていた。今のようにインターネットがなく、せいぜい音楽誌やラジオを通じての情報だったが、それでも断片的に入ってくる情報は期待感をいやが上にも高めてくれた。いわく、次の作品はシリアスなコンセプトアルバムで、ウエスト・コーストらしさはまったくないと。

 ひとあし早くシングルとしてリリースされた「ニュー・キッド・イン・タウン(New Kid In Town)」はマリアッチのムードが漂い、グレン・フライが気持ちよさそうに喉を鳴らしている、じつにイーグルスらしい曲だったため、くだんの情報はマユツバではないかとも思った。

 ところがアルバムが発表され、針を下ろしたとたん、「な、な、なんだ!」と驚いた。12弦ギターの硬質で細やかな音にいざなわれて始まる曲は、シリアスな雰囲気に満ちた、イーグルスらしからぬ曲だったからだ。そのうえ、歌が終わったあとのジョー・ウォルシュとドン・フェルダーのギター・バトルは大迫力だった。ストロークをかき鳴らす爽やかなイーグルスサウンドはどこにもなかった。そのあとも陰翳のある曲が続き、最後は「ラスト・リゾート(Last Resort)」というスローで深遠な曲調で幕を閉じた。

 これはえらいことだと思った。

「ホテル・カリフォルニア」の詩の舞台は、コリタスというサボテンが立ち並ぶ、西海岸のハイウェイ。男は休息を求めてロードサイドのホテルに投宿し、数日滞在している。

 しかし、無為に過ごしていることに嫌気がさして以前の自分に戻ろうとしたものの、離れられなくなったという内容だ。最後の一文、「You can check out any time you like, but you can never leave.」が物議を醸した。「いつでのチェックアウトできるが、ここから逃れることはできない」。いったい、なにが言いたいのだ?

 そののち、ドン・ヘンリーの発言がたびたび紹介され、行き過ぎたアメリカの文明批判だということがわかった。

 明確なコンセプトを裏付けるサウンドがみごと。ジョー・ウォルシュの参加によって、格段に厚みを増した。加えて、芸達者なメンバーが多彩な楽器を操り、表現の深みが増した。

 こんなものを作ってしまったイーグルスは、このあとが大変だろうと要らぬ心配をした。事実、次の「ロング・ラン」を発表したのち、グループは解散する。

 このアルバムには、個人的な思いも重なっている。当時、高校3年だった私は将来の展望がまったく描けず、悶々としていた。唯一、ロックを聴いているときと小説を読んでいるときが現実を忘れることのできる至福の時間だった。ちょうどその頃、真剣に向き合ったこのアルバムを聴くと、どうしても当時の境遇が甦ってくる。

 その頃と比べれば、明確にやりたいことがたくさんある現在は、極楽にもひとしい。

 

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