(他とまったくちがう=独自性)の見本
2018年に公開され、世界的に大ヒットしたクイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』によって、クイーンはロックファンなのみならず多くのファンを得た。本作の紹介に入る前に、私のクイーンとの邂逅について触れたい。
高校1年の頃であった。毎週土曜日の夜10時から3時間、ラジオ関東で「American Top 40」という番組を聴いていた。DJのケーシー・ケイスンが早口の英語でまくしたるように最新チャートを紹介する。私はまさに〝齧りつく〟ようにラジオから流れてくる音声を聴いていた。初めて聴いたとき、10位前後にチャートインしていたのが、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ(Bohemian Rhapsody)」であった。
じつに奇妙で魅惑に富み、他の曲とまったくちがっていた。「他とまったくちがう=独自性」は狙って獲得できるものではない。たまたま点と点が天文学的な確率で一致した到達点がこの曲だったのではないかと思っている。その名のとおり、オペラ風で構成が複雑、ヴォーカルも力強い。ふつう、チャートというものは上がり下がりが激しいものだが、この曲はずっと同じくらいの位置で売れ続けていた。単なる流行を超えた、普遍的な作品だったのだ。
とまあ、それがクイーンとの邂逅だが、正直、この4枚目のアルバムで頂点をきわめ、その後はゆるやかに退化していったと見ている。その点、『アビイ・ロード』までひたすら進化し続けたビートルズは別格中の別格といえよう。
とはいえ、この1枚だけで、クイーンという名は永遠に音楽史に残り、やがてクラシックという蔵に収められることになるはず。4人の際立った個性が、絶妙な一点で調和していることがそれを可能にした。
フレディ・マーキュリーは次のアルバム『華麗なるレース』で〝ロバート・プラントそっくりさん〟〝デヴィッド・ボウイーそっくりさん〟を披露するなど、器用さも示した。抜群に声域も広く、ロック界随一の歌唱力を持っていたことはだれも否定できないだろう。
また、ブライアン・メイのハンドメイドによるギターの音色は、それまでのどのギターの音色とも異なる。ドラマーのロジャー・テイラーは容姿と似合わぬアグレッシブなヴォーカルと高音のコーラスを併せ持ち、ジョン・ディーコンはソングライティングにも長けている。
そんな彼らの個性がピンポイントで結実したのが、このアルバムである。曲と曲のインターバルはほとんどなく、さながらメドレーのように構成されている。
「アイム・イン・ラヴ・イズ・マイ・カー(I’m In Love With My Car)」「マイ・ベスト・フレンド(You’re My Best Friend)」「ラヴ・オブ・マイ・ライフ(Love Of My Life)」など魅力的な曲がいくつも並ぶ。いつ聴いても鮮度を失わない、稀有な作品である。(1975年発表)
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