コンパス・ポイントで生まれた総合芸術
かつてロックは総合芸術であった。ロックの成り立ちは、たしかに安物で低俗なものだった。が、短期間に驚くべき発展を遂げ、アルバムコンセプトのトータル性や創造性(それまでにないスタイルの追求)、そしてジャケットのアート性など、サウンドのみならず視覚面でも楽しませてくれた。もちろん、レコードというサイズがものをいった。
ロキシー・ミュージックは、その独特の音楽性もさることながら、どのアルバム・ジャケットも秀逸だった。なぜか毎回、女性が登場した。3人の女性(ひとりはジャケット裏面)が槍を掲げている『フレッシュ・アンド・ブラッド』(写真下)など、いまもって色褪せない。
1982年にリリースされた最後のオリジナル作品『アヴァロン』は、彼らの集大成ともいえる作品となった。
アヴァロンとはケルト伝説に由来し、アーサー王が死後に向かったと言われる西方海上の極楽島をいう。この作品のジャケットに映っている後ろ姿の騎士は、ブライアン・フェリーが愛するルーシー・ヘルモアが扮しているというが、ま、このあたりはご愛嬌。
この作品でのメンバーは、ブライアン以外、フィル・マンザネラ(ギター)、アンディ・マッケイ(サックス)の3人のみ。
サウンドは、デビュー当時のとんがったグラム・ロックとはまるで異なり、ダンディーで耽美的でリリシズムにあふれている。ブライアンの声が、その曲調にぴったり合っている。このスタイルは、次のソロ第1作『ボーイズ・アンド・ガールズ』でさらに進化するが、ロキシー・ミュージックにしかできない境地を拓いた感がある。創作者として、そういう作品がひとつでも遺せれば、本望というものだろう。
どの曲もパズルのピースのように、それぞれに存在価値がある。オープニングの「夜に抱かれて(More Than This)」は波間をたゆたうようなリズムと美しいメロディーが印象的。
タイトル曲の「アヴァロン(Avalon)」は緻密にして大胆なリズムと女性コーラスが相乗効果をあげている。ブライアンの声が妖艶で、極上のダンディズムといえる。「テイク・ア・チャンス・ウィズ・ミー(Take a Chance with Me)」は聴くたびに恍惚としてくる。
最後に重要なことを。
このアルバムはバハマ諸島ナッソーの「コンパス・ポイント・スタジオ」で録音されている。コンパス・ポイントといえば……、もうおわかりですね。
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