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No.41

美の生い立ち
新世紀のBonsai Artist 森前誠二

Contents

 銀座七丁目の交差点から花椿通りを東に入ったところに、間口三間ほどの小さな盆栽店があります。
「銀座森前」は、明治以来銀座でたった一軒の盆栽店として、八年前に開店しました。この店のオーナーが森前誠二さん(栃木県南河内町在住)です。十五歳でこの道に入り、若手の盆栽家として、最近では和の空間のプロデューサーとしても活躍中です。
「盆栽」はいにしえよりそれぞれの時代の日本人独自の美学を融合しながら継承されてきた伝統文化です。戦後、高度経済成長期に空前の大衆化をみるのですが、盆栽が本来有する文化的側面が忘れられ、園芸的な側面ばかりが強調されてしまいました。また業界自体が単純に値段で格付けした結果、「裕福な年寄りの趣味」として、一般庶民の手から離れてしまったのです。
 森前さんが目指すのは、盆栽の大衆化です。しかも本来の芸術のとしての盆栽、日本人の自然観や精神性に寄って立つ、本当の意味での盆栽の愉しみ方を伝えてこその大衆化と考え、困難を乗り越えて銀座に盆栽店を開いたのです。
 今ようやく、「銀座森前」は銀座のひとつの顔として認められるようになりました。しかしこれは最初のステップだと言います。森前さんの次の目標は、二十一世紀の盆栽の可能性を切り拓き、世界に向けて花開かせることです。
 盆栽家としての森前さんは、その非凡な才能を思う存分発揮しています。フランスの伝統的なクリスタルガラス製品、バカラとのコラボレーション、朝倉彫塑館における盆栽と彫刻のコラボレーションや根津美術館での盆栽の展示など、物や建物、あるいはその場の空気までもが表情を一変させたという相乗効果によって、盆栽そのものの存在価値も大きく膨らんだのでした。昨年はアメリカでの講演で盆栽と水石の魅力について語り、圧倒的な人気を博しました。
 森前さんの行動は盆栽家として異質といえるかもしれませんが、どれも奇をてらったものではありません。十五歳からの修業によって身についた知識と技術、何より盆栽に対する深い愛情が、森前さんの行動を強く裏打ちしているのです。
 半生を振り返り、十代の五年間を盆栽に囲まれて過ごしたことが、人生のいちばんの勉強だったと森前さんは語ります。緩やかに、しかし着実に成長し続ける盆栽の力が、生きるための智恵を授けてくれたのです。
「生い立ち」とは盆栽の専門用語で「立ち上がり」といい、根から幹に続く盆栽の命の源、唯一、人の手が及ばない部分です。すべての盆栽に共通する表現方法がこの「生い立ち」を隠さないということで、これは盆栽の鉄則なのだそうです。人に例えると、飾り立てる自分ではなく、本質の部分を隠さない、ありのままの自分をさらけ出して生きなさいということでしょうか。
 森前誠二さんの生き方、盆栽への取り組み方をとおして、この日本のならではの文化の華「盆栽」という美の生い立ちをお伝えしたいと思います。

●企画・構成・取材・文・制作/五十嵐 幸子・都竹 富美枝
●写真/渡辺 幸宏

 

● fooga No.41 【フーガ 2005年 6月号】

●A4 約90ページ 一部カラー刷り

●定価/500円(税込)
●月刊
●2005年5月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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