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No.74

moment. 感じる瞬間
写真家・森日出夫のファインダー

Contents

 自分の生まれた場所や、長く過ごしてきた場所、今いる場所に対して、私たちは何を思い、暮らしているだろう。
 生まれてからずっと同じ街で生活している人もいれば、何度も引っ越しをくり返し、いろいろな街で生活してきた人もいる。また、職場や学校へ毎日離れた場所に通っている人や、決まった時期に、決まった場所へ旅行で訪れる人。
 私たちはいつも、さまざまなところで生きている。今これを読んでいるあなたは、昨日とは違う場所にいるかもしれない。そこにいるということは、その場所となんらかの関係性が発生しているわけだが、普段意識してそれを考えることはあまりない。
 写真家の森日出夫さんは、生まれてから六十年間ずっと横浜に住んでいる。仕事や個展などで離れることはあっても、生活の基本を横浜から移したことはない。東京で撮影がある時など、どんなに遅くなっても横浜に帰ってから食事をする。森さんは堂々と言う。
 「ここが好き。この街が好き」
 誰にとっても故郷というのは大切な存在である。森さんにとっての横浜はまさに故郷だ。だから好きなのは当たり前じゃないか、と思う人もいるだろう。しかし、森さんがここにいる理由はそれだけではない。海外や日本の多くの場所を見てきた森さんが、いいところも悪いところも含めて魅力がある街だと感じたのが、横浜だったのだ。そして森さんは、この街で生きていくことを選び、見つめ続け、撮り続けている。
 森さんのように、自分の故郷や暮らしている街をはっきりと好きと言える人が、どれくらいいるだろう。愛着はあっても、口にするのは恥ずかしいという人や、考えたこともなかったという人もいるかもしれない。
 忙しい日々の中で、いつも目にしている風景のことを意識している人は少ないと思う。だから私たちは、毎日同じ表情を見せている街が、じつは少しずつ変わっているということに気がつかない。大きな変化というのは、急に起こるわけではない。小さな変化が重なって、そうなるのだ。それをただ見逃しているだけなのである。 
 自分の街を、もう一度よく見てみる。昨日まであった建物が、今日は取り壊されている
。そして新しい建物が、また明日には建っている……なんていうこともあるくらい世の中の変化は早い。なくなったものが何だったのかすら、思い出せないくらいだ。
 「ついこの前まであったものが、いつの間にかなくなっていて、それがどんな色やかたちをしていたのかわからない。自分が生活している街なのに。そこがどんな街なのか知らない人が多すぎる。悲しいよね」
 失ってみて初めてその存在の大きさに気づかされる大切なもの。忘れ去られてしまう移りゆく街や人の風景も、じつはそうなんだと、森さんの写真は語りかける。
 記憶を記録する——
 変わり続ける横浜の景色を見つめてきた森さん。その写真には、私たちが見過ごしていた街の変貌の、一瞬一瞬が焼きついている。

● fooga No.74 【フーガ 2008年 3月号】

●A4 約90ページ オールカラー刷り
●定価/500円(税込)
●月刊
●2008年2月25日発行

 

おかげさまをもちまして、完売いたしました

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